沖縄タイムスエッセー「たんぽぽのタネ」② 顔を見て意見交換 実践

 

私の第2回目のエッセーが11月22日付の沖縄タイムス教育面に掲載されました。

 

 

 

《 顔を見て意見交換 実践 》

 

フランスで電車に乗っていたある日の出来事。帰宅ラッシュ時で車内は混雑していたが、どうにか私は6人掛けの最後の一席に座ることができ、ほっと一息ついた。私の席の周りに既に座っていた5人は、とても親しげに、時おり大笑いをしながら話をしていた。その様子に、「仕事仲間か友人同士だろう」と思いながら会話に耳を傾けていると、彼らは全員この電車の中で知り合ったばかりだということが分かり、とても驚いた。

初対面でここまで盛り上がることはまれにしても、電車やバスで隣り合わせた他人同士が目的地に到着するまで会話をしたり、市場で店員と世間話をしたりする姿は、この国では日常の一コマだ。

日本と同様、フランスでもインターネットやスマートフォンの普及率は年々上昇し、コミュニケーション手段として電話よりもメール、声よりも文字を選択する人が増えている。しかしながら、この国の人々は、時代がもたらす変化に抵抗するかのように、顔を見ながらの人との会話、「生身のコミュニケーション」を大切にしているように思えてならない。

私がこの国で学生を経て指導者になり、それぞれの立場から幅広い年齢の学習者を見てきたが、年齢に関係なく、生徒の授業中の発言が多いと感じる。発言の多くは教師への質問や生徒同士の意見交換であるが、教師に堂々と意見をする学生も少なからずいた。

日本とフランスでは教育が違う、国民性が違う、と違いを挙げればきりがないが、本当にそれだけだろうか。もしかしたら、「コミュニケーション能力」は教え育てるものではなく、見せて育てるものでは、と先のような光景を目にするたびに考えさせられる。(フランス公立音楽学校教諭、フォルマシオン・ミュジカル専門)

 


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