私の第3回目のエッセーが12月20日付の沖縄タイムス教育面に掲載されました。
《 子ども自身に選ばせる 》
「娘はハープにしたの」。7歳の子を持つ同僚が話し始めた。フランスの公立音楽学校では、さまざまな楽器に触れる「楽器体験学習」という授業が6歳児向けにあり、子どもたちはその翌年に専門的に学ぶ楽器を一つ選ぶ。「私の意見が子どもの楽器選択に影響しないように気を付けたわ」と彼女は続けた。私は同僚のこの言葉に衝撃を受けた。なぜなら、現段階では習い事の一つだとしても、子どもは将来その楽器を職業にするかもしれない。そう考えると、親が人生経験の少ないわが子のために、多少なりとも意見をしたり、将来を見据えて親が考える「よい道」に導いたりするのが、親として当然のことだと私は思っていたからだ。
実は、この「楽器体験学習」の狙いは「子ども自身に選ばせる」ことにある。日本同様、フランスでも年齢と学習レベルが上がるにつれ、楽器学習をやめる子が増える。普通学校の勉強と両立させる難しさが主因だが、元々興味のない楽器を選択“させられた”ことは大きい。自分で選択しなかった子どもを見ていると、楽器を演奏するモチベーションは「親が喜んでくれる」ことにあり、楽器を学んだり弾いたりすることそのものに喜びを感じていることは少ないからである。
10年以上も前のこと。フランスで初めて迎えた冬、窓から入り込む隙間風に凍えながらも、なぜか私の心は幸福感で満たされていた。両親が私を信頼してくれたことが、大きな自信になったのだ。子どもに決定権を委ね、その決断を尊重する事は容易ではない。しかし、子ども自身が責任をもって人生の決断を重ねていくことでこそ、その子は成長していくと確信している。
(フランス公立音楽学校教諭、フォルマシオン・ミュジカル専門)