沖縄タイムスエッセー「たんぽぽのタネ」⑤ ❝耳❞ を育てる音楽鑑賞

私の第5回目のエッセーが2月21日付の沖縄タイムス教育面に掲載されました。

 

 

 

《“耳”を育てる音楽鑑賞》

 

興味深い記事を見た。フランスのある保育園で10年前から行われている教育が、「外国語学習に有益」という研究結果を紹介したものだ。フランスでも早期教育の重要性が認識されており、私の専門の音楽教育に関して言えば、公立音楽学校には必ず幼児対象のクラスが設置されている。早期教育と言うと、多くの人は幼児期に「知識や技術を学ぶ」ことを想像するかもしれないが、フランスでは後の器楽学習に有益とされる「素地形成」を目的としている。先の保育園と音楽学校に共通しているのは、この「素地形成」のために「さまざまな音や音楽を聴く活動」が教育の軸になっているという点だ。音楽と語学学習。どちらもまず、“耳”を育てることを重視している。

 実際、外国人音楽家のフランス語が上手である確率が極めて高いことから、幼少期から音楽に触れることは語学教育に有効に働く、と私は確信している。手前みそだが、私自身もフランス語になまりがないと褒められることが度々ある。

 しかし、この“耳”は外国語学習の「始めの一歩」を踏み出す助けにはなるが、それだけでは十分ではない。あまり苦労することなく一定のレベルに達することはできても、ある能力が高くなければそれ以上は伸びないのだ。その能力とは、母国語である「日本語力」だ。実際にこれまでに出会った在仏日本人で、フランス語に達者な人は全員、日本語の表現力や語彙力、構成力に優れていた。 

 40代目前の私。「物事を学ぶのに遅いということは決してない」という誰かの言葉に勇気づけられながら、今回もこのエッセーの執筆を辞書を片手に奮闘している。

 (フランス公立音楽学校教諭、フォルマシオン・ミュジカル専門)

 


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